ゴム製の多孔質散気管は、下水処理向きではあっても、産業排水向きではない
ゴム製の、多孔質散気管(ポーラスディフューザー)というものがあります。
ゴム製の膜に、数百ミクロンサイズの微細な穴をたくさん空けたタイプの、棒状や円盤状の散気管です。
そもそも、ゴム製の多孔質散気管は「下水処理向け」に開発された製品です。
それを場違いな「産業排水向け」にも使うため、下水向けでは露呈しなかった欠点が顕著に現れてしまって、ユーザーを苦しめています。
以下に、その実態をまとめます。
1.目詰りのトラブル
- ● ゴム製散気管は、汚泥濃度(=微生物の濃度)が濃い現場では、数ヶ月〜数年の内に必ず目詰りを起こして使えなくなる。
(産業排水での汚泥濃度は、4,000〜15,000mg/Lほど)
だから、下水では目詰りが進むテンポが遅く、この欠点が目立たない。
2.酸素溶解の効率が大幅に低下するトラブル
- ● ゴム製散気管は、「酸素溶解効率が高い」と思われているが、実はけっしてそうではない。
清水時の酸素溶解効率は高いが、汚泥濃度が高い産業排水では、アルファ値は最大で0.2ほどまで低下する。
(アルファ値:0.2とは、キレイな水で採った酸素溶解効率を100とすると、その効率が 80%ダウンするという意味)
【※アメリカのEPA(環境保護庁)のレポートなど】
つまり、 汚泥濃度が非常に薄い下水であっても、50%〜60%も効率がダウンしてしまう。これは大変な問題です。
3.槽内に堆積ヘドロが生じるトラブル
- ● ゴム製散気管は、数ミリサイズの、粒の揃ったバブルのみを吐出する。
小さなバブルは浮力が小さく、勢いよく水中を上昇しない。
だから攪拌力が弱く、槽底にどうしても嫌気性の堆積ヘドロが生じてしまう。
だから、この欠点が目立たない。
上記の3つの欠点はいずれも、汚泥濃度(=微生物の濃度)が薄い下水処理場では目立ちにくいため、比較的にゴム製散気管のメリットが出やすくなります。
しかし、下水処理場でいくら高い評価を得たとしても、条件が段違いに過酷な産業排水向けにそのまま使って良いはずがありません。
ゴム製散気管は下水処理向きであって、産業排水向きではないからです。
ゴム製散気管を下水処理向けに使った場合と、産業排水処理向けに使った場合の「曝気の総合力」で比較すると、一目瞭然です。
「曝気の総合力」とは、以下の評価分析チャートの各項目に当てはめた時に、キレイな五角形になるかどうか、で判定できます。
(食事の栄養バランスと同じです。1種類だけの栄養素を過剰に摂取しても、人体はそれを活かすことはできません。
全体的な栄養バランスが取れてはじめて、健康を保てます。
散気管も総合力で評価して、その真の実力を見抜かないと損失をこうむることになります)
参考:マイクロバブル発生装置は、散気管の代わりとして曝気に使えるか?
新しい曝気の手法として、マイクロバブルを曝気に使う、とPRしている会社があります。
果たして、マイクロバブル発生装置は曝気装置として優れているのでしょうか。
これも、「曝気の総合力」評価分析チャートで判定すると、よくわかります。以下のとおりです。
曝気槽内の水は酸素枯渇であるため、どんなマイクロバブル技術を使っても、酸素溶解効率はほぼ100%に達します。
だから、「酸素溶解効率」だけに着目すれば、「優れている」と評価されます。
しかし、局所だけに高濃度の酸素を送り込んでも、何百〜何千m3もある曝気槽全体からしてみれば微々たるもので、非常に大きなエネルギーを使ってまで、曝気槽内でマイクロバブルを作る意味はありません。
高濃度の酸素は「酸素毒」という言葉があるほど、生き物にとっては毒にもなります。
マイクロバブルではありませんが、純酸素ガスを曝気槽に送り込む「純酸素曝気」を行っている排水処理施設があります。
エアー中の酸素濃度の約5倍の高濃度酸素ガスを曝気槽に送り込むわけですが、だからといって処理効率が5倍にはなりません。
逆に、エアーによる通常の曝気方式よりも処理能力が劣る、というケースさえあります。
「純酸素曝気」と「エアーによる曝気」とが比較された事例がありますので、お求めいただければ資料を差し上げます。
曝気槽に入る前の段階で溶存酸素を高めてやれば、曝気槽での曝気エネルギーを減らせてスタートダッシュできる、というわけです。(※詳細は、資料を差し上げます)
こういった使い方であれば、マイクロバブル技術は非常に有効といえます。
繰り返しますが、散気管の代わりにマイクロバブル発生装置で曝気する、というのは、ナンセンスです。
加えて、マイクロバブルはサイズが微細すぎて、浮力をほとんど失っています。
だから、槽内を引っ掻き回して均一攪拌する力がなく、槽底に嫌気性の堆積が出来て、無駄に酸素を消費するゾーンを生み出してしまいます。
局所に高濃度酸素を送り込んでも、その酸素供給分をはるかに上回る酸素消費ゾーン(嫌気ゾーン)を生み出してしまっては、元も子もありません。